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R.P. ファインマン: 困ります、ファインマンさん (岩波現代文庫)

ファインマンのエッセイ集のひとつ。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」は自伝的な話が多かったが、こちらはもう少し社会的な話が多い感じ。

私は大学時代はまさに理学部物理学科の物理学徒だったのだが、この本は当時読んでいなくてむしろ良かったかなと思う。
NASAでの調査など「政治的」な話や問題を上手く扱えない組織などの描写は、30歳を過ぎたおっさんの身になったからこそ、深く感じ入る部分が多い。大学生の時に読んでも、あんまりピンと来なかったろうなあ。面白い本だった。(☆☆☆☆☆)

以下、読書メモ的に箇条書きで。

*妻アーリーンとの話。フェルミやボーアに「リッチとプッツィより」というカジュアルなクリスマスカードを送る。ひとがどう思おうとかまわない、という一貫した態度。

*数をかぞえる話。頭の中で「見て」かぞえる、「唱えて」かぞえる、同じ部門のことは同時にできない。

*インド人と黒人の話
どちらも貧しいのにインド人は成功できるのはなぜか?
ファインマン「インド人には何千年も前からずっと続く、宗教や哲学などの伝統がある。いかに生きるべきか、生きることの目的がある。黒人は残念ながら伝統を築く機会がなく、あったとしても国を乗っ取られ奴隷制度の下敷きになり、その文化を破壊されてしまったため」

*三重県の伊勢奥津駅へ滞在したらしい。日本旅館と、近所の神社の奉納式を楽しむ姿が面白い。

*父親の教育。
鳥を見つけるとその名前などはどうでもいい、「何をやっているのか、よく見てみよう」「ああして羽をつっつくのはなぜだろう」
後年、父親から、原子のエネルギー準位の変化により光子(フォトン)が出てくるというが、どこから出てくるのか? と聞かれたという話が印象的。そんなこと考えもしなかったなー

*チャレンジャー号事件の調査
これはなかなか考えさせられる章だった。現場では「Oリングは低温ではマズい」ということは分かっていたのに、それが適切に上に伝わらない。現場の人間はどうすれば良いか分かっているのに、その通りに組織は動かない。
日本でもこういう話はよく話題になるが、アメリカのNASAですらこうなら、もう人間社会の組織というのはどうしてもこうなってしまうもんだろうなぁ……とちょっとがっかりしてしまった。

この中で述べられている、ファインマンのAppendix Fは、現在もNASAのサイトで公開されている。
Appendix F - Personal Observations on Reliability of Shuttle

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