« 森見登美彦: 美女と竹林 (光文社文庫) | トップページ | 荻窪圭: デジカメ撮影のネタ帳 シーン別ベストショットの撮り方 »

リチャード P. ファインマン: ご冗談でしょう、ファインマンさん

物理学徒たるもの必読の一冊と聞いてはいたのだが、なんとなく読みそびれて30代のおっさんになってしまった。
が、これではいかんとようやく図書館で借りてきた。
ファインマン先生が幼少の頃から研究生活へと入るまでに起きた、様々な事件を面白おかしく語ってくださる科学エッセイ。

いやー、これは面白い本だった。軽妙かつユーモアたっぷりの書きっぷりと、その裏に確かに横たわる凄まじいまでの洞察力と知識。他の人が書くと単なるイヤミになるようなことも、すっきりと感じさせてくれる。
上巻のメインはやはり、マンハッタン計画に従事していたときの「下から見たロスアラモス」だろう。この中で書かれる、軍による手紙の検閲とそれをからかう暗号作りなどは、アメリカと日本に共通する当時の「軍というもののおかしさ」を描いてみせてくれている。

下巻で面白いのは、日本滞在記と言える「ディラック方程式を解いて頂きたいのですが(Would you solve the Dirac equation?)」。無理を言って日本旅館に宿を変えてもらい大興奮し、そこの風呂で湯川教授に会うくだりなどとても面白い。

その他にも、興味あるエピソードがいっぱい。
*タイトルの「ご冗談でしょう(Surely you're joking)」は、プリンストン大学でのイギリス式社交辞令の文句らしい。つまり何かへまをした時、そこでは怒られるのではなく、こうたしなめられるのだ。
*メタプラスト社でのプラスチックめっき。こんな仕事もしてたんだ。
*コンピュータをいじるものがかかる「コンピュータ病」。目的そっちのけで、自動的にarctan(x)を計算する方法に夢中になってしまう。
*プリンストンでのゼミに、パウリ・アインシュタイン・ノイマンなど大御所がずらりと来ると聞いて青くなるシーンが印象的。自信満々に見えるけど、そういうこともあったんだなー。
*アリの通り道の研究。アリがエサを見つけた帰り道を色鉛筆で辿ると、最初はガクガクだったのが徐々に「省略」されてまっすぐになっていく。なるほどなー。紙のフェリーに乗せてアリを運ぶなど、アリの行列への探求は実に素直で興味深い。
*「Physical Review誌に載る記事には全部目を通していた」という記述がさらりとあるのにはビビった。当時と今では投稿数も段違いだろうけど、それにしてもPhys. Rev.を全部読むとは……。
*教育について、ブラジルの大学教育の駄目な所をはっきりと指摘したり、アメリカの小学校教科書を辛辣に批判したりと、実に真剣。相手が誰であろうと、ダメだと思うところははっきりと言う。上巻でも、大御所ボーアに対して「考えがお粗末ならお粗末と言う」というくだりがある。
*芸術家に科学とテクノロジーを教えよう、という章も面白かった。これは今の日本でもやるといいと思うなあ。
*「ファインマン物理学」の冒頭になぜドラムを叩くファインマンの姿が載っているかが書いてある。長年の謎が解けた。単に、振動の節などを書くために太鼓の写真が良いのではというのが誤解して伝わったそうな。

ということで、大変面白い本でした。
ただ、マンハッタン計画で原爆を作り上げたことに対して、あまりにさらりとしすぎなのだけがちょっと不満だったかな。そこはもう少し掘り下げて考えて欲しかったなあ。(☆☆☆☆☆)


|

« 森見登美彦: 美女と竹林 (光文社文庫) | トップページ | 荻窪圭: デジカメ撮影のネタ帳 シーン別ベストショットの撮り方 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。