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亀井高孝, 桂川甫周: 北槎聞略―大黒屋光太夫ロシア漂流記 (岩波文庫)

タイトルは「ほくさぶんりゃく」と読む。「おろしや国酔夢譚」として小説にもなっている、江戸時代の漂流記。
駿河沖で遭難した大黒屋光太夫たちが、アリューシャン列島の一つであるアムチトカに流れつき、そこからロシア中を駆けめぐって日本へと帰り着く大冒険記だ。

これは本当にスゴい。色々と漂流記はあるけど、スケールが大きすぎる。
また、単純に漂流記として読んでも面白いけど、当時のロシアの状況が辺境の地の風俗からペテルブルグの上流階級の生活にまで事細かに記録されており、歴史資料としても一級。

書物って本当にスゴいな。今から200年以上も前の人が体験したこと・考えたこと・思ったことが、現在の我々にも手に取るように感じることができる。久々に感動した本だった。

あんまり面白い場面が多々あったので、引用しておこう。

*鬼に殺されるかと思いきや、現地女性が見に来ただけの巻

(略)表の方より二、三十人が足音して入来たる者あり。そのさま甚(はなはだ)異形なり。頭はかむろにて、面に青き条あり、鼻の孔と下唇に角の生えたる者なれば、磯吉大きに肝を消し、三人の者は殺害せられ、今我々はこの羅刹の餌食にとらるる事と覚えたり。あはれ小刀一本あるならば、やみやみとは食はれまじ、一個(ひとり)なりとも刺殺して死(しな)んず物と、やたけには思へども、赤手(からて)なれば為方(せんかた)なく、心中に太神宮の神力を祈奉り、身を縮居(ちぢめい)たる内、追々に立帰りぬ。是は此島の女にて、漂流人を見に来りけるなり。二人は漸(ようよう)人心地になり、(略)


*漂流生活から解放された途端に、さっそく米を炊きはじめる日本人の巻

その内に日も暮に及び、空腹になりける故、石にて曲突(くど)をつき、釜を掛(かけ)、飯をたき、握飯にして喰らいしを、試(こころみ)にあたりに立たる嶋人にあたへけるに、一口食いて残りをばうち捨(すて)ける。魯西亜人ははなはだ賞美の躰にて食せしとぞ。


*ロシア人、湯上がりの浴衣を欲しがる

彼邦(かのくに)にては浴後直(ゆあみのちすぐ)に汗袗(じゅばん)を着居て身を乾し、其儘(そのまま)に衣服を着る也。光太夫持合せたる浴衣を着たるを見て甚(はなはだ)感心し、皆々俄に浴衣を製したるよし。魯西亜に浴衣ある事は光太夫より始りしなり。


*ほおずきを鳴らしてみせて、ロシアに流行らせる光太夫

酸醤(ほおずき) (略)子(み)は此方のものと同じ。よく熟したるをとりて菓子となし食ふ。光太夫此方の児女のもてあそびのごとく瓤(さなご)を出し、ふきならし見せければ甚めづらしがりて、夫(それ)より一般にはやりしとぞ。


この他にも、サウナを楽しんだり、教会のことを頑なに「寺」と呼んだり、牛乳を飲むことにショックを受けたり、本当に面白い本であった。
いやー、日本には素晴らしい書物がまだまだあるのぅ。是非とも読むべし。(★★★★★)

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